「重い」





自分よりも一回り以上は小さな彼女に覆い被さって、いざ事を始めようとにじり寄ったその時、はどこか深刻そうな声で言った。
何事かと視線を彼女の顔に戻すと、アイルランドの紺碧の空に似た瞳が嘆かわしげに俺を見上げていた。
身に付けていた洋服と下着の全てを俺にはぎ取られて一糸纏わぬ裸体を晒しているは、大げさに言えばこの世のものとは思えないほどの美しさだ。シーツに広がった長い黒髪が濡れたように暗闇に抱かれた室内で光る。それに反比例するような白さの皮膚に覆われた肉体は特有のやわらかな弧を描いて横たわっていた。
その媚態に中てられたようにくらくらと襲う眩暈。それは俺に陶酔を促して早くも脳内を侵し始めている。
しかし、当の本人は今にもがっついてしまいそうな俺とは対極の思考で、冷静とも言える凪いだ眼差しを向けていた。





「・・・なんだよ。どうしたんだ?」






ここまで持ち込んだ雰囲気を壊してはなるかと、逸る気持ちを抑えてなんともないふりをして微笑んだ。
の前では理性など正直あってないようなものだったけど。少しは年上だし、余裕のあるいい男を演じていたい。というか、彼女がずっと持ち続けているロックオン像というのはそういうものだった。
下手に壊して失望とか嫌われたりとかしたくない。
その一心で余裕ぶった俺の下、彼女はうーん、と可愛らしく眉根を寄せてみせた。





「おかしいな」





言いながら、俺の手とは比べものにならないくらい華奢なそれが俺の脇腹をひたひたと撫でていく。
平素なら手そのものに触れられたところでくすぐったくもなんともないが、どういうわけかひんやりとした指先で撫でられてはむずむずとするばかりだ。
というか完全に態勢に入ってしまう。
きっとそれなりに真面目な話をしたいだろうにその態勢では、彼女どころか俺でさえも困ってしまう。
なるべく触れられないように、未だ撫でていた手をとって持ち上げ、その掌に唇を寄せた。触れた掌は俺の唇よりももっと冷たかった。






「おかしいって何が?」






冷えた手を握って問う。手を取られたままの彼女はその様子を嫌がるわけでもなく、俺の為すがままに任せている。






「身長なんかたかだか1cmしか変わらないのに」
「え?誰と?」
「そう変わりもしないと思うのに、どうして?何が違うの?」
「何が?誰と?」
「ねぇ、どうして?」
「それは俺が一番聞きたいんだけど、お前さん、何気にしてるんだ?」





頭に浮かんだことだけをそのまま羅列したに俺は困惑した。
一体何が疑問でこんなことを言い出したのか。
そして、誰を引き合いに比べているのか。
彼女の“疑問”を理解したが、その輪郭は曖昧にぼやけたままで辿るのは難しい。
代わりに輪郭のはっきりした彼女の頬のラインを指先で辿った。荒れ一つない肌は何のひっかかりもなく滑らかだった。






「うん、アレルヤとね。ロックオンが」






ようやく彼女が呟いたのはアレルヤと俺の名前だった。
しかし何が違うというのか。まだ頭に疑問符が残る俺には言った。





「身長。アレルヤはロックオンより1p高いだけなんだけど、体重が2kg軽いのよ」
「ああ・・・そういうこと・・・」





俺の情報はともかくどこで個人情報を手に入れたのか、はアレルヤのデータと俺のデータを比べていたようだった。
そうしてその違いに気づいたは、その差に疑問を抱いたらしい。
単純に言えば、俺とアレルヤでは長年のトレーニングに差がある。アレルヤは聞いた話によると、子供の頃からずっと身体を鍛えなければならに環境にあったらしい。あまり突っ込んでは聞かなかったが、恐らくどこかである程度の訓練を課される日々を送ったのだろう。あの屈強な身体には同性の俺でも惚れ惚れするものがある。が、誓って言うが俺は同性愛の嗜好は一切持ち合わせていない。単なる憧れの話だ。男なら一度はあれくらい身体を鍛え上げてもみたい。
俺はというと、訓練というように言えるものはある程度身体ができてから始めたことだった。もともとそれなりに体格は良かったのが幸いしたのか、トレーニングを積めばしっかり筋肉はついてきた。とはいえ前述の通りそれではアレルヤには追いつけるわけもなく、あいつの腕と比べれば俺などまだまだ細い部類だ。
その辺りの差がデータ上にわかりやすい数字として表れているのだろう。





「アレルヤと俺じゃ鍛え方が違うんだよ」
「ロックオンだってちゃんと鍛えてるのに、何がちがうのかしら・・・。こんなに、腕だって」





握っていた手を解いたが遠慮もなしに俺の腕を撫でる。
その気兼ねのない距離感にじんわりと幸福感が湧くのと同時に、一方で劣等感が刺激される。
そういうことを分かっているんだかいないんだか、彼女の指は肩と腕のラインを行ったり来たりしてその感触を確かめている。
生殺しって知ってるか?
そんな風に尋ねたくなるくらい、彼女は無邪気な無神経さで容易く俺を翻弄する。指先一つでどうにかなりそうだなんて、そんなのは悔しいから絶対に言ってやらない。
一人気まずいような気分で瞑目していると、そっとあの指先が俺の髪を優しく梳きあげた。頬にかかっていたのがくすぐったかったのだ。





「悪い」
「ううん。ロックオンの髪なんだから悪いことなんてないわよ」





少し身を離して距離を取ったが、くいと僅かな力での方に引き戻されてしまう。
相手はか弱い女で力で負けるはずはないから、俺が負けたのは眼下で寄せられた豊かな両の双丘だ。ミス・スメラギに若干劣るとはいえ、完璧なラインを象るその豊満さは見事なものだ。ごくり、と思わず嚥下してしまう。
加えてこの猫のような笑み。蠱惑的な微笑に心臓があり得ない早さで収縮を繰り返す。
あたし、魔女なの。
なんて、初めて顔を合わせたときににっこり微笑みながら言われたことを思い出して、ああそうだなと今更ながらに肯定した。
確かにお前は魔女だった。声と姿態と、その仕草だけで息をするより簡単に俺の心を持って行った。
最終的にはお前に食いつぶされるのかな。
指先から美味しそうに食べられて、最期には自分の指先を舐めながらごちそうさまなんて言って笑うのだろうか。
別にそれでもいい。
もしが望むのなら、そうしたって構わない。
ただ、今はまだお互いその温もりにまどろんでいたい頃。すっかり食べられてしまうのはまだまだ先だ。
俺の肌を辿りすぎて温かくなった手を掴んで、俺の首にかけさせる。は素直にきゅっと腕を絡ませた。





「キスしてもいいか?」





問うと吐息で笑って、は眼を閉じた。
柔らかい唇を食んでちゅっと吸い上げると、もっとと言うように更に深く口づけられる。甘い舌先が踊るように熱く蠢いた。
そろそろもちそうにない。
一度唇を離して、こつんと額を合わせると至近距離で現れた青海の瞳は潤んだ光を湛えていた。





「なあ」
「なあに?」





呼び掛けに柔らかな問いが返る。
それだけで急かされるような気分になる。早くが欲しい。
はらりと肩口にかかった黒髪を払ってやりながら、俺は更に問いを投げかけた。





「2kg・・・違うんだよな?」
「うん、そうみたいね。アレルヤのほうが軽いわ」
が手伝ってくれたら軽くなるかも」
「へぇ、そうなの?」





何したらいいかしら、と小首を傾げるの耳元に、俺は低く艶めいた声で囁いた。





と運動したら、お前の望み通りの体型になる」
「うんど・・・って!ちょ、あっ・・・やぁ・・・・」





柔らかい胸に手をかけて掴みあげれば感じやすい彼女のこと。言葉尻は喘ぎに消えて切なげに暗い室内に溶ける。
谷間に舌を這わせれば、少し押し返していた手がくたりと力をなくして震えだす。





「ん、・・・ふ、ぁン・・・」






今まで散々煽ったのはだ。抵抗されても止める気はなかったが、そもそも抵抗の反応が見られない。
俺は一度伸びあがって、そっと赤く染まった頬に唇を寄せた。
はぁ、と小さく息を吐いた彼女が潤んだ眼で俺を見た。やはり責める色のないそれに、俺は問いというより、お願いに近い囁きを零す。





「してもいいか?」





言うと、彼女は呆れたような苦笑を浮かべた。
なんだか聞き分けのない子供に言うような口調で諭される。





「・・・仕様のない人。運動に託けてまで・・・我慢できなかったのね」





ほらおいで、と首を引き寄せられて抱きしめられる。
どうにもこうにも、には敵わない。
俺が食いつくされてしまうのはきっと時間の問題だ。
魔女は薔薇のように紅い唇で囁いた。





「あたしも早く食べちゃいたい」










魔女食卓









随分長いことほったらかしていた話を書いてみましたー。
裏は当分書けそうにもないなぁ・・・恥ずかしいし。


そもそもこんなサイトもってるだけで恥さらしなのだから、
敢えて更に恥をかくことはないと思うのだけどいかがでしょう・・・。
いらないよね、需要ないよね。


最近従姉妹(高1・・・若いのう)とメールしてたんですが、二期はヴァーチェたんがいないからがっくりだそうです。
彼女は機械萌えだそうです。なんて男らしい・・・(笑)
藤原はニールがいなくてがっくりです。ああんニール・・・。
                                                            (2009/06/09)