ねぇ、アレルヤ。あたし、もし貴方がどこかの軍だか、なんだか分からない組織に捕まったとしても、必ず助けてあげる。どんな手を使ってでも、この手を血に染めてでも、貴方をきっとあたしの腕の中に取り戻してみせる。嘘じゃないわ、本当よ。危険なんて百も承知。安全だったことなど一度も無いし、貴方に及ばずとも死線は幾度も越えてきた。あたし、貴方が思うほど柔でも、優しくもないわ。愛するアレルヤ、貴方のためならあたしは鬼にだってなれるのよ。怖いものはたった一つだけ。物言わぬ貴方があたしのもとに帰ってくる、ただそれだけ。














随分昔に寝物語に話したような気もするけれど、それほど時間は経っていないようで、あたしの記憶野は一語も違わずその句を思い起こさせた。
どうでもいいけどあの夜、彼の躯に付けたキスマークの数だってよく覚えている。首筋に6、胸に12、腕に3、言えないところにまでそれは及ぶ。箇所まで覚えているのだから質が悪い。
それは自分の普通とはあまりにも違いすぎる脳の出来に因るものだから、仕方がないと言えばその通りでそれ故に成せることも普通の脳の人よりは多くあった。
あたしの脳は常人よりも遥かにその能力が優れている。
家は古式ゆかしい軍師の名門だったから、家人はその天才とも言える、否、天才としか呼べない才能を喜びあらゆる学問をあたしに学ばせた。
その脳における弊害は多くあれど、その故にあたしはソレスタルビーイングに見い出され、アレルヤと出逢うことができた。自分のことはそれほど好きでもなかったけれど、あの人が好きだよって笑ってくれるなら、あたしの出来の良すぎる脳もそう悪く事を運んできたわけではなかったらしい。
それにしてもただの冗談のつもりで言ったはずが、あの時から近い将来にその内容が実際のことになるなどと思いもしなかった。
とは言え、全く思わなかったのかと問われれば嘘になる。
あたしの思考は物事に関して常に最悪の事態を考えるように出来ている。
この組織では表立って“軍師”だなんて役割は与えられていないものの、スメラギ女史の参謀として迎えられた以上、助言、或いは異議の一つも発する立場にあるためその訓練を怠ることは一度もなかった。
あの夜言ったこともその一つで、ある意味では間違いではなかったと言える。
4年前…アレルヤが人革連に鹵獲されたと知った時、襲う絶望感に呑まれ、不覚にも泣き崩れて数週間も無駄にしてしまったけれど、その後のあたしの行動は早かった。
幸運にも生き延びたティエリアと刹那、ソレスタルビーイングのクルーと共に、壊滅的だった組織の立て直しに尽力し、一方で行方知れずとなったアレルヤの捜索も開始した。
刹那は途中で、世界を見たいと言って姿を消した時期もあったけれど、今はティエリアと同じようにあたしの隣に立ってモニターを見上げている。





「これが…アレルヤが収監されている所、なのか?」





少しの緊張を孕んだ声で刹那が呟く。この4年間で彼は随分成長した。その声も、性格も、覚悟も全て。
あたしは4年前と何ら変わらぬ声で淡々と頷く。





「ええ…そうよ。これがアレルヤのいる所。なんだか殺風景ね、如何にもって感じでしょ?」





モニターに投影された映像を、あたしは冷たい瞳で見上げた。
周囲を海に取り囲まれた、小さな孤島に建造された小さな箱。
なんだか全てが小さくて、大きなアレルヤには窮屈なんじゃないかしら、なんてふと思ってしまう。
早くあの箱から出してあげたい。彼が囚われていいのはあたしの腕だけ。他の輩に盗られるなんて冗談じゃない。





「やはり人革連…いや、かつては、と言うべきか…」





ティエリアが苦々しく唸る。彼も見た目はさっぱり変わったりしなかったけれど、内面の成長には目を見張るものがあった。優しくなったな、と頼もしく思う。





「地球連邦だろうが、旧人革連だろうが関係ないわよ。あたしのアレルヤを盗ったのは紛れもなく人革連で、それは4年の長きに渡って彼を幽閉した…。そろそろ、返してもらわなゃ」
「返してもらう、か…。はずっとアレルヤの帰りを待っていたから、ようやくだな」





刹那があたしに向けて穏やかに微笑んだ。
あたしは少しだけ肩の力を抜いて小さく笑みを返す。





「すぐに殺されるような心配はなかったから、それだけが救いだったわ…」
「戦犯ともなると詮議の上で処遇を決めなければならない。しかも世界に対し、武力介入などと大仰なことをしてみせた組織の一員だ。地球を牛耳る地球連邦と言えど、今の世でおいそれと殺すわけにはいかない。が希望を捨てなかった理由の一つだな」





それにしても4年だ…、とティエリアが重く噛み締める。
そう、4年だ。よく今の今まで殺されずに生きていてくれたと強く思う。と同時に、それまで彼を生かし続けた連邦の体制の甘さに失笑する。やはり組織されたばかりの地球連邦は、かつての各軍に僅かばかりの思惑があり、それを払拭できずに今日に至っている。一枚岩の組織であるならそうはいかない。合議の上で早くに彼の命は断たれていたはずだ。





「まあ、二心ある大組織の3つが突然ひとつに纏められたんだもの。当然の結果ね」
「そこまで考えるのか?軍師は…」
「…スメラギ女史もあたしもそれくらいは考えられないと成り立たないでしょ?本当はあの人がいればもう少し発見は早かったはずなのよ」





今いない人の話をしたってどうにもならないのは分かっている。それでもあの後スメラギ女史がソレスタルビーイングを離れたことに、当時のあたしは酷く嫌悪感を覚えたものだった。
辛かったのは分かる。だってあの人、作戦が上手くいかないたびに泣いていたもの。
だけど、職業軍人になるべく教育を受けてきたあたしにすれば、そんなのはただの甘えで泣き寝入りなんて絶対に赦されなかった。
泣く前に出来ることはたくさんあるし、駄目なら責任だって取れるのが“軍師”というものだ。あの人は戦術予報士だったけど、呼び方の違いだけで役目はさして変わらない。
何も言わずに去ったあの人の気持ちを、今なら少し分かる気がする。
堪えられなかったのね。
仲間がみんな倒れて、苦悶の悲鳴を上げるのを、聞いてなんていられなかったのね。
あたしはアレルヤがいなくなったことでその想いを痛感した。
でも出ていくことは出来なかった。
彼を独り、暗く冷たい場所に置いたまま、全てを忘れて日常に帰ることは出来なかったから。
ティエリアが時計を見る。顔を刹那とあたしに向け、厳かに告げる。





「そろそろ時間だ。刹那、用意を」
「ああ。分かっている。…はここで」
「ええ…。“軍師”の持ち場は机上だもの。ここにいるわ。気をつけて…二人とも。あと…」





あたしは彼らを見遣り、静かに震えそうになる声で言った。





「あたしの、アレルヤを…助けて」





ティエリアが重々しく頷き背を向けて歩き出す。





「待っていろ。必ずアレルヤ・ハプティズムを連れて帰る」
はここで待っていてくれ。きっとアレルヤは無事だ」





ぽん、と肩を刹那に叩かれてあたしは泣きそうになりながら微笑んだ。
刹那もティエリアに続いてそれぞれの機体に乗り込むべく歩みを向ける。
あたしはその後ろ姿を見送り彼らの無事を祈った。
策は上々。為せる手は全て打ち、為すべき時が来た。
小さな島。小さな箱。
アレルヤが囚われる小さな檻。
彼がいる建造物を睨み付け、あたしはただ強く彼を想った。







アレルヤ。
いつか話したことを覚えている?
どんな手を使ってもあたしは貴方を取り戻す。どこにいたって絶対に探しだして助け出すの。
好きよ。愛してる愛してる。
アレルヤ。
貴方の声があたしの耳に届く。
貴方の指があたしの頬に触れる。
貴方の目にあたしの顔が映る。
それはたった数分後。
世界はあたしと貴方を残して音もなく崩れ去った。














ただく、キミ











2期が近いっていうかもうあと数日しかないので2期捏造ネタで。
アレルヤの動向が凄く気になります・・・。早く助けてあげてー!!
でもマリーマリー言い出したらものすごくどうしたらいいんだろう(笑)
アレ(ハレ)ソマはプッシュじゃないんです・・・。
ソマたんは可愛いけどプッシュじゃないんです;
FESで愕然でしたものあたし・・・。
いろんな意味で非常に気になる2期はどうか半年と言わず1年はやっていただきたいものです;
                                                  (2008/10/1)