*アレルヤとハレルヤが学生、ヒロインが教師の学パロです!ご注意!!




















午後の談笑にざわめく校内に、楽しい時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。
次はなんの授業だっけ、と急ぎ各々の教室へと足を向ける波に逆らって、僕はある準備室へと向かっていた。
途中、すれ違った同じクラスの生徒にどこか行くのかと尋ねられ、気分が悪いから保健室に行ってくるとささやかな嘘を吐いた。当然嘘だということを彼らは知っている。それでもそのことを咎めたりしないのは、同じ学生生活という時間を過ごす仲間への、ある種の連帯感からくるものなのだろうか。
とにかく彼らの包囲網は酷く緩いもので、僕は難なくそれを潜り抜ける。
早く行ってお弁当を渡してあげないと、彼女はお腹を空かせたまま午後の授業を終えてしまうだろう。帰ってきたら文句の一つも言われそう。
小脇に抱えた包みを改めて抱えなおす。
先程より随分疎らになった廊下を、知らず小走りで通り過ぎていた。
急ぐ僕に頭上から声がかかったのは、目的の準備室がある新校舎と旧校舎を繋ぐ渡り廊下に程近い3階に伸びる階段の傍を通り過ぎようとした時だった。





「おい、アレルヤ。どこ行くんだよ」





少し乱暴な、よく聞き慣れた声。僕のそれとよく似ている。
僕は長年連れ添った半身を下から見上げた。





「ハレルヤ、君朝の授業どうしたの?朝は一緒に家を出たのに、ホームルームの時にはもういなかったじゃないか」
「ああ・・・んなもん面倒だから屋上で寝てた。ついでに今起きたところだ。で、お前どこ行くんだよ」





登校してからのハレルヤの行動を問いただす僕に、彼は律儀に答えてからもう一度さっきと同じ問いを繰り返した。





「あ、うん。先生のところに・・・。朝一番に会議があるからお弁当できるまで待てないって言って出て行ったから持っていってあげようと思って」






そう言って手にした大きめの包みを掲げると、ハレルヤは身を乗り出していた手摺から身軽に飛び降りた。
長身と身に纏った筋肉の総量の割に、彼は音もなくコンクリートの床に着地する。
僕が手にしたものをまじまじと見つめ、合点がいったように頷いた。





「ああ、な・・・。あいつ出ていくの早かったのか。どうりで朝起きてもいないと思ったんだ」
「ハレルヤ、学校で名前なんかで呼んじゃ先生に叱られるよ」
「固ぇこと言うなよ、アレルヤ。どうせ誰も聞いてなんざねぇよ」




くぁ、と欠伸をしながらハレルヤは猫のように伸びをした。まあ確かに彼が言うとおり、周囲にはいつの間にか生徒の影もなくて、今の会話が聞かれていたというのは先ず考えにくい。
緊張感がないなぁ、なんて思ったけど、朝がどうとかお弁当がなんだとか言っていた僕も相当緊張感がないんだと気付く。
ハレルヤと、そして僕の三人は文字通り一つ屋根の下で身を寄せ合って生活している。と言ってもと僕たちは赤の他人で、血の繋がりなど当然ありはしない。
ちょっとした偶然が重なって彼女が僕らの面倒をみてくれることになったのはほんの三年前だ。その日から僕らはずっと彼女の庇護下に身を寄せ、確かな日常を約束されている。
それだけで満たされた毎日だというのに、は僕らの身の上に過ぎた愛情さえ傾けてくれる。優しく抱きしめて触れる唇に僕は焦がれ、ハレルヤは執着する。
彼女の庇護は温かくて居心地がいい。





「仕方ないな、本当に・・・。ハレルヤも来る?」
「ああ。・・・あいつ、今から行って準備室にいるのか?」





ここから見える件の部屋の窓を見上げ、ハレルヤは短く呟いた。
閉ざされた薄緑のカーテンが風でゆらりと揺らめくのが視認できた。人の影は映らない。
それでも僕は彼女があそこにいるということに確信を持っていた。





「うん。5限は授業ないって言ってたし、先週末の試験の答え合わせがあとちょっとで終わるとも言ってたから、先に昼休憩のうちに終わらせてるはずだよ。・・・先生のことだから」
「ふーん・・・のことになると詳しいこったな」





どこか面白くなさそうなハレルヤの横顔に苦笑する。
僕からすれば君だって、僕が知りえない彼女の様子を知っているというのになんて顔をするんだろう。
お互いないもの強請りだということは承知している。
ハレルヤが行くか、と独り言みたいに呟いて僕らはその話題を何事もなかったように中断した。
僕らと彼女の関係は、赤の他人、教師と生徒、保護者と被保護者、恋人、他に挙げるとすればそれは一体何だろう。























社会科準備室。
そう表札を掲げた部屋の前に立ち、僕はその扉を3度ノックした。





、いる?」




授業中の教室を気にしながら、控えめの音量で声をかける。
暫くしてから、中から扉に隔てられた不明瞭な声がどうぞ〜と返ってきた。
ハレルヤが遠慮もなく、がらりと音をたてて扉を開ける。開けた瞬間に鼻腔をくすぐるのは梅のような清しい芳香だった。が付けている香水の香り。
僕の当初の予測通り彼女は机に生徒たちからかき集めた答案用紙を広げ、赤ペンで採点を付けているところだった。
水のように流麗な所作で点数を書き込んでいく。
生徒に配るために作った正解の答案用紙を見ることもなく、その作業は続いていく。答えも把握済み、ということらしい。
ハレルヤが当たり前みたいにのデスクに一番近い椅子に座ると、彼女は漸くその秀麗な面を上げた。





「授業中でしょ。兄弟揃ってサボってるの?悪い子ね」
「俺が悪い子なのは今更だろ?そういうのはアレルヤに言うべきだぜ」





ちらりと鋭い視線を送られた僕は曖昧に微笑んでみせるだけだ。
確かに無断欠席、遅刻、校則違反などありとあらゆる違反をまるで呼吸をするかのように簡単にやってのけるハレルヤに、悪い子なんていう称号は生ぬるい表現としか言いようがない。





「それでも悪い子は悪い子よ。二人揃って、後から他の先生に文句言われても知らないから。5限の教科は?」
「なんだろな。俺はしらねぇ」
「グラマーだよ。でも先生はいないから自習だって聞いた。課題のプリントは放課後に提出すればいいから、問題だけど誤魔化しもきくし。それでの用事が終わるの待って、お昼一緒にしようかなと思って」





僕ははい、と抱えた包みを渡した。は受け取って、それと僕を交互に見つめて小首を傾げた。




「ご飯、食べてないの?」
「うん。食べてないよ?君と食べる気でいたから」
「やだもう!呼んでくれたらすぐ休憩中にいったのに!」





がたんと椅子を蹴立てて立ち上がると、は静観を決め込んでいたハレルヤを椅子から引きずり下ろし僕たちが入ってきた入口に向かった。
てっきりこの部屋で食べると思っていた僕は、ぼんやりとその後ろ姿を見送ってしまう。





「アレルヤ、早く。ぼーっとしてないで」
「え、あの、どこに行くの?僕ここで食べるんだと思ってたんだけど」
「馬鹿ね!ここは教員以外立ち入り禁止でしょ。それに、スメラギ先生が急にプリント忘れたとかで戻ってきたら困るじゃない。冷やかされて遊ばれるもの」
「見せつけてやりゃいいじゃねぇか。今彼氏いないって聞いてるぜ、あの人」





移動するのが面倒で仕方がないといった風のハレルヤは、なんとかここに留まるべく適当な理屈を並べ立てる。
でもそれって職業教師のからしたら、更に反論の余地を与えるきっかけになるんじゃないかな。
さてはどうでるかな、と様子を窺ってみると、思った通りの反応が飛び出した。





「あたし教師。貴方たち生徒。禁断すぎるでしょ?」
「PTA、怖がってんのかよ?らしくねぇな・・・。構うなよ、俺が一生面倒みてやらぁ」





ぐい、と彼女の細い腰を引き寄せたハレルヤがピアスの穴すら開いていない綺麗な耳に低く囁く。
普段ならなし崩しになっているはずだが、いかんせんここは神聖な学び舎だ。は強い意志を以て張り付いたハレルヤを身から剥がし、掌で軽く彼の頬を叩いた。





「今面倒みてあげてるのはあたし!あんまり自由なことしてると、1週間家にいれてやらないわよ!」





金銭面から住宅事情までお世話になっている身としては、さすがのハレルヤもそれ以上の悪ふざけはできないようだった。
僕はこそっとハレルヤの耳に届くように呟いた。





「追い出されたらハレルヤのせいだからね」
「へっ、追い出されるかよ。あいつが俺らなしで生きてけるわけねぇな」
「・・・ハレルヤ、正直に言うと今放り出されたら生きていけないのは僕たちだよ。馬鹿なこと言ってないで、からかうのも程々にしなよ」






全く、必要以上に自由すぎるハレルヤには、行動パターンを知り尽くしているはずの僕でさえ辟易する時がある。
思わずついた溜息の後、に目を向けると同様にはぁ、と疲れたように息をついていた。
分かるよ、。僕も今憂鬱な気分だ。





「ハレルヤのせいでなんだかものすごく疲れたわ。早く糖分補給しなくちゃ・・・。屋上にいきましょうか・・・今なら人もいないはずだし。ほら、しゃんとして!」





ハレルヤの背中を押してが準備室を出る。彼女は包みを僕に渡すと、部屋の鍵を上着の隠しから取り出し慣れた手つきで施錠した。
それを見遣ってから僕が先に立って歩き出した。二人が後に続く。
遠くから教師が声高に弁論を振るい、生徒たちが不意に笑い出す喧噪が聞こえる。
しかし廊下には僕たち三人のピンヒールの控えめな足音とスニーカーの擦れたような静かな足音だけが響いている。
隔離されたようなその空気。温度。匂い。
ここは間違いなく学校だけど本当はそうじゃないような、別次元の世界を僕に錯覚させた。
階段を登りきって、重い鉄の扉を押し開く。触れた指先と掌に伝わる冷たさがそろそろ訪れる冬の気配を示唆した。
ああ、そろそろ毛布を出してあげないと寒がりのが凍えてしまう。





、寒くない?」





尋ねると彼女は平気、と頭を振った。長い黒髪が風に攫われて甘く香る。





「ここに座りましょ」





軽快な足取りで屋上に足を踏み入れたはそのど真ん中を陣取って手招きをした。
乾いたコンクリートに腰を下ろすと、僕が手にした包みを広げて小さく笑声を漏らした。





「ふふ、お重ね」
「ついでにハレルヤの分も入れたから。まあそこそこの量だしね」
、箸くれ」
「あ、ちょっとハレルヤ!ちゃんといただきますとか言ってよ」





重箱を広げて三人で食べ物を分け合う。
紙皿に取り分けてに渡すと、彼女は嬉しそうに受け取りお箸で口に運んだ。





「ん、玉子焼き美味しい」
「よかった。ちょっと焦がしちゃったから苦いかなって思ったんだけど」
「ううん、ちゃんと美味しいわ。あたし、アレルヤの作ってくれるゴハン好きよ」





から揚げも美味しい、と彼女の口に合うように小さめに作ったから揚げが咀嚼される。シェフの美食で慣らした舌に、僕の拙い料理など及ばないはずだ。それでも彼女は満足そうにそれを飲み込んで、コップに注いだお茶をで一口含んだ。ほう、と温かく息を吐く。
それから不意に高い空を見上げて穏やかに微笑んだ。





「なんだか遠足にきたみたいね」
「学校の屋上に遠足たぁもの好きだな」





自分の取り分を食べ終えたハレルヤは、大きく欠伸をしての膝に頭を乗せた。
そういうところ、僕は実はすごく羨ましかったりする。
どうしてハレルヤはこんなこと自然にできてしまうんだろう。僕だったら伺いもせずに膝枕なんてできるはずがない。できたとしてもなんだか気恥かしくて自ら辞退さえしてしまいそうだ。
はハレルヤが甘えるのが気に入っているのか、髪を撫でたり頬を突いてみたりと楽しそうだ。
ハレルヤはそれを払い落す気もないらしくされるがままに、大人しく金の瞳を閉じている。
やがてハレルヤの暢気な寝息が聞こえ始めた頃、は小さく手招きをして僕を呼び寄せた。





「ん?なに?」
「もうちょっとこっち。ダメ、遠すぎ」





手が触れるのが可能な位置に寄っても彼女はその距離をまだ遠いと言う。
また少し近づいても遠いと。
言われるままに近づくと彼女の身体に僕の身体が触れる近さになった。
その状態は密着。





「ん、これがいい」





僕を自分の背後になるように位置をさらに移動させ、背中を僕の胸に預けた。僕の体勢は必然的にを後ろから抱いて座る形になる。
それは家にいる時に決まってせがまれる体勢で、要するに外では絶対にしない体勢だ。





、人が来たらバレてしまうよ」





外ということもあって過剰に反応する心臓を宥めながら僕は尋ねる。
僕らの関係は三人だけの秘密。最悪外部に漏れたとして、それが許されるのは僕とハレルヤが学校を卒業したときであるべきだ。
他人に言えないなんてなんだかちょっと寂しいなんて思ったこともある。
同級生はみんな手を繋いで仲が良さそうに触れ合ったりしているけど、は学校では先生だからそういうことは絶対にしないし恋人の話をしたりすることはほとんどない。
それなのに今のこの状況は僕としては全く想定し得ない状況なのだ。
は空腹を満たされた満足感からか、少し眠そうに笑う。





「いいの。今は他のクラスは授業中だし。ハレルヤも甘えるし、あたしも甘えたくなっちゃった」





おおよそ理由にもならない理由では僕に寄りかかる。
少し冷たい風が通り過ぎて、の髪をゆらりと揺らした。
僕はが凍えないように抱いた手に力を籠める。腕の中の温もりを閉じ込める。
腕の中で、彼女が一呼吸。





「次の授業、サボっちゃおうかしら」




僕はくすりと笑いを漏らし、その耳に小さく囁いた。








悪い子だね








なんとなく学パロ。
設定はヒロインが教師で、アレハレが学生で、同棲で、保護されてる感じで。
やってることは非パロともそう変わりません。単にアレハレが分裂してるかしてないかの差です。
                                                  (2008/10/27)